夢の中の世界
「もう1度、考えてみよう。珠が事故に遭った土曜日、それぞれなにをしていたか話すんだ」


ずっと考え事をしていた恵一が言った。


「まだ、あたしのことを疑ってるの!?」


思わず声を荒げて聞いていた。


少し油断していたところに、冷や水をかけられたような感覚だ。


一気に体中に汗が拭きだし、怒りに似た感情で体温が急上昇していく。


「疑ってなんかない! 床も天井もダメだった。この空間の中で唯一のヒントになっているのが時計だけなんだ」


恵一にそう言われ、あたしは時計に視線を向けた。


長針は相変わらず5分の場所で止まり、秒針ばかりが空しく動き続けている。


「それなら、あたしはさっき言った通りだよ。珠に連絡して、約束場所にいた」


恵里果があたしを庇うように早口に答えた。


「そうだよ。これから先のことは、あたしは覚えてない」


あたしは深呼吸を繰り返して言った。


記憶していないものを説明するのは無理だ。
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