夢の中の世界
視線を恵一へと向行けるが、恵一は返事をしないままジッと床を睨み付けていた。


しかし、さっきからの態度を見ていると、肯定しているのと同じだった。


全身が冷たくなっていくのを感じる。


記憶から抜け落ちたパーツが1つ、コロンッと足元に転がっている感覚がした。


それを拾い上げて記憶の中に紡がなければならないのに、手に取ることができない。


そのくらい重たい真実だった。


「……あたし、恵一のお父さんに轢かれたの?」


掠れた声が出た。


一文字発するごとに、心臓がドクドクと早鐘を打つ。


ここまで緊張したのは初めての経験かもしれない。


高校受験の時だって、これほどの緊張感はなかった。


いつの間にかギュッと握りしめていた拳には、ジットリと汗が滲んできていた。


恵一はゆっくりと顔をあげてあたしを見る。


目が合った瞬間、また心臓がドクンッと跳ねた。


事実を知らなければならない。


だけど知りたくない。


自分の中で、そんなせめぎ合いが続いていた。


恵一の表情は歪んでいて、申し訳なさで一杯に見えた。


「そんなの、ここにいる全員が知ってることじゃないですか」


恵一を庇うようにいったのは1年生の一輝だった。


あたしはハッと息を飲んで一輝へ視線を向ける。
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