夢の中の世界
「それじゃ、恵一は事故を間近で見てたの?」


あたしの問いかけに恵一が頷く。


「本当は、ずっと怖かった。珠が救急搬送されて、親父が警察に連れていかれて。頭の中は真っ白になってた」


当時を思い出したのか、恵一の声が強く震えた。


恵一は自分の体を両手で抱きしめて話を続けた。


「でも、珠の命には別状がないってわかって、ひとまず安心したところだったんだ。親父がしてしまったことは許されることじゃないけれど、でも、珠が助かったのならって……」


恵一の言葉に嘘はなさそうだ。


この空間にいることの恐怖や不安が、少しだけ緩和された気がした。


「だから、ここで目が覚めて珠がいた時、正直すっげー嬉しかった。珠は回復して、学校に戻って来たんだって思った」


「そうだったんだ……」


あたしはぼんやりとここで目覚めたときのこと思い出した。


全員、突然ここで目が覚めてとても混乱していたっけ。


実際には、あれからどのくらい時間が経過したんだろうか?


体感では、もう何時間も経っているように感じられた。
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