夢の中の世界
「恵一先輩が車に同乗していたことも、珠先輩以外の全員が知っていることです。そんなことをカミングアウトしたところで、変化はないと思いますけど」


一輝がため息まじりに言った、その瞬間だった。


カチッ!


あの音が、教室に大きく響いたのだ。


全員が息を飲み、視線を時計に向けていた。


「動いてる……」


貴央の後ろにいた真弥が呟くのが聞こえて来た。


ずっと5分のところにいた時計の長針が、今は10分のところにあるのだ。


あたしは大きく目を見開いてそれを見つめた。


「やっぱり、珠の事故に関することを話せば時間が進むんだ!」


恵里果が叫ぶ。


少しおだやかになっていた心臓が、また早鐘を打ち始めるのを感じた。


「でも、さっきから事故の話をしてたけど、全然動かない時もあったよな。あれはどういうことだろう」


吉之が難しそうに眉間にシワを寄せている。


確かに、あたしたちはさっきからずっと事故についての話をしている。


その中で針が動いたのは、あたしが事故に遭って入院していたと聞かされたときと、恵一の父親が事故を引き起こしてしまったと、カミングアウトしたときだけだ。
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