隠し事

「あ、初めて見る顔だね！俺、谷口凪斗。よろしく！」

美風の近くの席に、凪斗がいた。読書をしていた美風に凪斗は話しかけてきて、勝手に自己紹介を始めたのだ。

「一ノ瀬美風です。よろしく……」

微笑むこともせずに美風は答える。自分とは生きる世界が違う人だと直感でわかった。明るくて、どんな人とも関わろうとするクラスの中心にいる人物。美風に冷たい目が向けられる。

「谷口くん、やめなよ〜。一ノ瀬さんは一人が好きなんだから……」

「そうそう！何話かけても冷たいし」

何度かけられたかわからない冷たい言葉が、また美風の耳に入る。でも、美風が傷つくことはもうない。美風が一人を貫ぬくのには理由がある。それを何もクラスメートは知らない。

美風は、七歳の頃に養子として親戚に引き取られた。本当の両親からは虐待を受けていて、中学生の姉と二人で支え合って互いの居場所を作っていた。

美風が七歳になったばかりの頃、両親は夜中だというのに大喧嘩をしていた。父が怒り任せに母を包丁で殺してしまい、美風と姉は親戚に引き取られたのだ。