隠し事
しかし、その家でも居場所はなかった。体への暴力はなかったものの、今度は心に傷をつけられていった。こき使われ、姉の笑顔は疲れ切ったものへと変わっていく。

そして、美風が十三歳になった時、姉が自殺をした。美風が学校へ、親戚一家が旅行に行っている間のことだった。姉は、物置部屋で首を吊って死んでいた。

「お姉、ちゃん……」

変わり果てた姉の姿を見た時、美風の中で全てが壊れていった。唯一の居場所が、愛が、美風の中でなくなったのだ。姉の死と同時に、美風は大切なものを失った。そして、一人を貫くようになった。

愛を止めて、私から逃げて。美風は人を遠ざけるたびに、そう思った。全部を壊してほしい。過去も捨てて笑い飛ばしてほしい。グルグルとそんなことが美風の頭の中を巡る。

「一ノ瀬さん!聞いてる?」

「えっ?」

暗い闇の中から、急に光の中に連れ出されたような感覚を美風は覚えた。ざわめきが耳に、心に、目に、全てに戻る。美風の目の前で、まだ凪斗はいた。

「さっきから話しかけてるのに、ずっと上の空だったから……。ひょっとして具合でも悪い?」
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