隠し事
美風は微笑みながら、桜の木の下へと向かう。桜の蕾は膨らみ始めていて、四月になれば綺麗な花を咲かせるのだろう。

「好き……」

凪斗の前では言えない想いを、美風はポツリと呟く。どこで凪斗が生きていても、この気持ちは変わらないだろう。

しかし、美風は愛を知らない。人の愛し方を知らない。両親からも、誰からも、教えてもらえなかった。愛し方を知らない美風は、恐れていたのだ。未完成の自分は、大切な人たちを傷つけてしまうと。だからこそ、人から遠ざかった。凪斗への想いを隠すことを決めたのだ。

思い出全てが美風の中に押し寄せて、引き返して、定まらない。正常な日々を返してほしい。凪斗を好きだと気付いた時から、美風の心は嵐のように激しく動いていた。それでも、終われない。終わりたくても、終われないのだ。

「一ノ瀬さん」

声をかけられ、びくりと美風は肩を震わせる。胸が高鳴り、ゆっくりと振り返れば微笑んでいる凪斗がいた。

「卒業、おめでとう」
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