美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「どういうつもりだ。就業規則で退職の1ヶ月前には社に予告するように書かれているはずだが?」

「存じ上げております。急いで引き継ぎをする日数を3日頂ければ後は有給休暇が40日残っていますのでそちらを消費させて頂きたいかと」

瑠花は、朔也の冷徹な無表情にも少しも怯まなずに答えた。

それだけ決意は強いということだ。

雅樹は二人を見比べるとため息をついて

「土曜日に僕達と別れてから何かあったの?トラブルなら社に報告して。一瞬の遅れが大きなトラブルを生むこともあるんだから」

と瑠花を諭すように言った。

「それは・・・但馬課長にお聞きになるとよろしいかと。退職の件は一身上の都合としか申し上げられません」

頑な瑠花の態度に、朔也が大きなため息をつく。

「一身上の都合とは納得がいかないな。社会人としてそんな言い草がまかり通るとは思っていないだろう?」

「朔也、その言い方・・・。ねえ、瑠花ちゃん。俺達に言いたくないこと?もしかして元彼と復活したとか?」

゛元彼゛と言う言葉に瑠花と朔也の顔がピクリとひきつる。

「今はプライベートは関係ありませんよね?辞める理由が必要なら人事部長に個人的にお話ししますので」

否定しない瑠花に、朔也の顔は益々般若化していく。

「朔也、本性出しすぎ・・・っていうか、穂積部長、ここは穏便にいきましょうか」

宥める雅樹の様子を見ながら瑠花は考える。

入社後5年が経ち、狭間と但馬に手柄を奪われていたとはいえ陰の功労者は瑠花で間違いないのだ。

研究開発課を引っ張っていくはずの瑠花を、穂積の内情を知る瑠花を、穂積ソワンデシュヴが手放して被る損失は計り知れないと考えるのが妥当だろう。

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