美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
一方で゛どうして゛と疑問に思うこともある。

これまでもこれからも情報管理と新商品のサンプル管理は厳重にやっているつもりだった。

そもそも誰が入ってくるかわからない研究室に、新商品のサンプルを置くバカはいない。

金曜日、上層部にお披露目をした後、あのサンプルの゛ダミー゛を見たのは狭間と・・・心晴だけだ。

部屋に置いていたダミーサンプルは完成するずいぶん前の段階の代物で、盗んだところで所詮ガラクタなのだが、瑠花が帰宅前に気付いた時にはなくなっていたので、誰かが持ち去ったとしか考えられない。

所詮ガラクダなのだと丁重に扱わず問題視しなかったのがいけなかったのだろう。

おそらく犯人は狭間で間違いないと思ってはいるが、まさかロイヤルシャボン社にリークされ、あちら側が瑠花の新商品を真似て売り出す暴挙に出るとは思いもしなかった。

どんなに似ているとしても、所詮似て否なる物。

正当な評価は受けない、と思いたい。

しかし、あちら側が先に新商品を発表してしまって、逆に瑠花がアイデアを盗んで真似たのだと言われたら、後出しでどんなにランクが上のものを発表しても、業界からは軽蔑され追いやられる。

それが現実で納得のいかない競争社会。

だからこそ瑠花は、これまで狭間と但馬の陰に隠れて新商品開発だけに専念してきたとも言える。

ひたすら好きなことに没頭して世間の闇、いやあの二人の愚行に目をつぶってきたツケが今まわってきたのだろう。

これから、おそらく穂積に問い詰められた狭間はロイヤルシャボンのホームページで発表される予定のあの新商品について話すに違いない。

瑠花が他社の新商品のアイデアを盗んだと言われたら・・・。

そして、上層部の皆がその話を信じたら・・・。

瑠花は泣きそうになりながらも、大きく首を振って自分を鼓舞した。

あの狭間や但馬でも、瑠花がたった半日で新商品の代替え案を出してくるとは思いもしないだろう。

だからこそ、

゛新商品以上の新商品を作り上げることで身の潔白を晴らしたい゛

そう考えた瑠花は持っている力の全てを今目の前にある製品に注ぎ込んだのだ。

瑠花は朔也に渡したサンプルと同じ小さなボトルを目の前に掲げると、

嬉しそうに笑って、そして声も出さずに・・・泣いた。
< 114 / 164 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop