美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
引き継ぎ書を作成し、研究室の片付けをしながら感慨に耽っていた瑠花は、徐々に疲れを感じ始めて大きく伸びをした。

五年間溜め込んだ不用品は想像以上に大量であり、全てを処理するにはあと数日はかかるだろう。

処分するのは、これまで瑠花が開発し商品化してきたヘアケア商品の原石やデータの解析表などが大半だ。

どれも思い出深く、読み返し始めたらなかなか作業が前に進まずに困ってしまった。

しかし、退職後、瑠花はこれらの資料を読み返すことはない。

もう二度とヘアケア商品の開発には関わらないと心に決めたから。

瑠花が、これらの資料を゛後輩の行村恭彦にでも譲ろうか゛と考えていたところに、冷徹俺様眼鏡御曹司である朔也が登場した。

期待を裏切らない俺様なタイミングでのお出ましに瑠花は苦笑した。

「今度は逃げなかったな。賢明な判断だ」

朔也は相変わらずの無表情を意味深な笑いに変え瑠花に近づいてきた。

「部長から逃げ切れるとは思っていません。土日はたまたま県外に行っておられたので逃げ切れたのだとわかってます」

そう言って瑠花は嫌みたっぷりに答えたのだが、

「あと1分で終業時間だ。荷物と上着を持ってこい。さっさといくぞ」

と、全く瑠花の気持ちを汲み取ろうとしない朔也は゛俺様上等゛な追い討ちをかけてきた。

「はいはい、どこにでもお付き合いしますよ・・・」

半ばやけくそになった瑠花の言葉に

「本当だな?言質は取った」

と、朔也は上着のポケットからICレコーダを取り出して得意気に笑った。

嫌みなほど極上な笑顔だった。

゛沈黙は金゛

゛言わぬが花゛

瑠花は、余計な一言が身を滅ぼすという事実を身をもって体験しその場に立ち尽くしたが、ボンヤリしている隙は与えられず、結局は朔也に急かされるままに帰宅の準備に取りかかる羽目に陥るのだった。
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