美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「ええ?副社長、心晴さんにセクハラしていたんですか?そう言えば、同期の中にも被害者がいたような・・・」

本社から戻った朔也から、事の成り行きを聞いた瑠花は目を見張った。

瑠花自身は、研究室に籠りきりの隠れニート状態だったので副社長の毒牙にさらされることはなかった。

そのため、直人が弾劾されたと聞いてもさほど実感はわかなかった。

「それにしても、藤川係長がそれほどまでのセキュリティオタクで心配性だとは知りませんでした。・・・でも、それなら何故、但馬課長が藤川係長のパソコンに不正アクセスをした時すぐに気付かなかったんですか?その時点で発注取り消しが行われた通知が来たはずですよね?」

という、瑠花の疑問はもっともだった。

「ああ、藤川は極度の心配性というだけではなく、極度のウッカリ屋なんだ」

心配のあまり、大切なタブレットを引き出しにしまい鍵をかけて出掛けた藤川は、出先での仕事が終わるまでその存在を忘れていた。

くしくもその日は金曜日。

直帰した藤川は、長野の工場長から連絡が来るまでタブレットの通知に気付くことなく過ごしていたのである。

゛宝の持ち腐れ゛゛箪笥の肥やし゛とはまさにこのことである。

「まあ、そんな一見完璧に見えるけどドジな藤川に心晴さんは惹かれたらしいけどな」

と、朔也は笑った。

「父親の後妻の娘である心晴さんを、浅子夫人が逆恨みしていたことはわかりましたが、心晴さんをなぜ副社長のライバルである穂積部長と結婚させようとしていたんでしょうか?」

「父親と共謀して会社の乗っ取りを画策していたんだ。決して社長になれないだろう俺と結婚させて蔑むことでプライドを満たそうと思っていたらしいぞ」

゛くだらない゛

朔也は心底そう思ったが、純粋な瑠花は

「へえ、上流階級の人々の考えることは複雑なのですね」

と、全く理解できないと首を傾げていた。
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