美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「だが、あの狭間と但馬が今後、黙ってクレーム対応室なんかにおさまると思うか?あの禿げ親父のことだ。何かを仕掛けてくるに違いない」

雅樹はため息をつきながら、朔也の机の上に積まれた書類を手に取った。

「俺が課長としてここにやって来るまで、瑠花ちゃん以外の研究員の目は死んでいた。あの娘は、良くも悪くも欲がないから、商品開発さえ出来れば良かったみたいだけど、ね」

「そんなわけないだろう。さっきの表情からもわかるように、頭ごなしに押さえつけられて本当に好きなものや作りたいものを作ることは許されていなかった」

狭間は冒険を嫌う。

その癖、万人に好まれる商品を作れという。

横暴な主人には、忠実な犬が付き物だ。

それが但馬課長。

爬虫類のようにネットリした瞳に見つめられると、気の弱い社員はたちまち精気を失う。

但馬に追い詰められて会社を去っていった新人は片手では足りない位いるのだ。

「とにかく奴らが何を仕掛けてこようと、彼女は俺が守る。お前が心配することではない」

「俺は彼女の直属の上司だよ?社長が俺をここに配属したんだ。お前じゃない」

終業時間に向けて、業務を片付け始めた朔也は、もはや、雅樹の話を聞こうとはしていなかった。

「誰のお陰で美髪のシンデレラを見つけることができたんだっけ?」

ピクリと朔也が動きを止める。

「わかればよろしい」

ハハハと笑う雅樹は、朔也との不毛なやり取りを心から楽しんでいるように見えた。
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