美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「それに、宣伝広報に関しては、俺と橋沼の同期の狭間女史が担当してくれる。彼女は親父さんと違って、真面目な仕事人だから安心して任せていい」

突然降って沸いたラッキーな申し出に有頂天になりかけていた瑠花だったが、゛狭間課長゛の名前を聞いた途端に現実に引き戻された。

心晴と朔也は婚約者だ。

瑠花が朔也と共に商品デザインを手掛けると知ったら、心晴の心証は良くないだろう。

「お気持ちは大変ありがたいのですが、やはり私は今後も研究開発のみに専念したいと思います」

残念だが、夢を叶えるのは先伸ばしにした方がいいと瑠花は思った。

男女のいざこざに巻き込まれることほど厄介なことはない。

狭間部長(心晴父)からもあれ程釘を刺されたではないか。

これ以上、外野の人間にとやかく言われたくはない。

瑠花は、作り笑顔で穂積に断りを入れた。

「なぜだ?何が気に入らない」

胸を刺すような冷たい視線に、瑠花は内心怯みつつも冷静に

「何も。ただ、私は研究者なのだと言いたいだけです」

と答えた。

しかし、

「嘘をつくな。君の机の上に、ボトルのデザインが描かれたスケッチブックが何冊も置かれていることに誰も気づいていないと思っていたのか?」

呆れたような朔也の言葉に瑠花は言葉を詰まらせることになった。

「どうせなら最後まで責任を持ってやり通してみろ。それができないなら、新商品の原材料の取引もなしだ」

ここに来て、原材料の取引をやめるとか、とんだ鬼畜としか言いようがない。

餌を目の前にちらつかせ、ほんの少し食べさせた挙げ句に取り上げるなんて、とんだS系王子だ。

朔也がなんの目的でこんなことを言い出したのかはわからないが、瑠花は

゛愛社精神があるのなら最後までやり通せ゛

と言いたいのだろう、と思い直す。

それでも本当は納得がいかない瑠花は、キッと朔也を睨みながら、

「わかりました。やらせていただきます」

と、慇懃無礼にお辞儀をして返事をした。
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