美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「何故さっさと返事をしない。約束を忘れたのか?」

瑠花がエントランスを解錠した後エレベーターを使ってすんなりと部屋の前まで来た朔也。

無表情の朔也に対し、出迎えた瑠花の表情も固い。

「約束って・・・。時間も、待ち合わせ場所も何も決めてませんでしたよね?」

「尋ねてこなかったのは君自身だろう?聞かれなければこちらの都合でいいのだろうと思うのが普通ではないのか?」

゛普通はではない゛

内心激しく否定する瑠花は、朔也の中に゛普通゛というカテゴリーが存在することに驚きを隠せなかった。

「それは失礼いたしました・・・。では早速ですが目的地はどこですか?何か持参しなければならないものはございますか?」

瑠花は半ば諦めの境地で、矢継ぎ早に今後の予定を確認することにした。

「いや、何も準備する必要はない。君はその身一つで俺についてくればいい」

好きな男に愛を囁かれている場面なら悶絶もののシチュエーションだろうが、瑠花の現状は俺様上司の我が儘に付き合わされているだけに過ぎない。

「では、時間が惜しいのでさっさと向かいましょう」

目的も目的地も告げられないままであったが、瑠花としてはこれ以上、不毛な時間を過ごすつもりはなかった。

゛後で代わりの有給休暇を請求しなきゃ ゛

瑠花の中には、これがデートであるとの認識は全くなかった。

「ところで君は、ここで上司にお茶の一つでも出してもてなそうという気持ちは湧かないのかな?」

「湧きませんね」

この期に及んでお茶まで要求してくる神経がわからない。

即答する瑠花の反応にさして堪えた様子もなく、

「容赦ないな。まあいい。いくぞ」

と、朔也はきびすを返してエレベーターに向かって歩き出した。
< 73 / 164 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop