美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「瑠花」

「何?」

「瑠花」

「だから、何?」

朔也の車に乗せられ、目的地も告げられずに出発してしばらくのことだった。

男性とプライベートで二人きりになることのない瑠花は、仕事とはいえ、車という密室空間で何を話してよいのかわからずダンマリを決めこんでいるうちに、つい・・・寝てしまっていた。

゛もう、ルカルカうるさいって・・・んっ?゛

安眠を邪魔された瑠花は、寝ぼけた思考の中で、微かな違和感に気づいた。

「眼鏡が呼び捨て・・・」

アメリカンハイスクールに通っていた瑠花は、ファーストネームで呼ばれることに抵抗はない。

大学は日本の大学に通っていたものの、途中で短期間の留学もしたので、突然呼び捨てされても違和感がない。

゛そういえば穂積部長もフランスに留学していたと橋沼課長が言っていた゛

と、瑠花は思い返し納得しながらも

「穂積部長、ここは日本です。部下を呼び捨ては不味いかと」

と、欠伸をこらえながら訴えた。

「ふっ、上司の運転する車の中で早々に寝る奴が細かいことにこだわるな。それにここは日本の前に俺の車の中だ。治外法権だろう?」

゛この俺様部長の周りは常に治外法権のクセに今さらだ゛

眠ってしまった気まずさで治外法権を認める形となってしまいそうだが、瑠花は敢えて何も言わずに運転中の朔也をチラリと見るだけにとどめた。

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