美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「えっ?ここ・・・ですか?」

朔也の車が向かった先は、山手線周辺エリアからは少し離れたDシティ。

さらに瑠花の住む地区とは真逆に位置しているため移動に時間がかかり、瑠花は高校一年生の来場を最後にDシティには来ていなかった。

「もしかして行き先は゛穂積堂゛ですか?」

懐かしさと嬉しさに思わず頬を紅潮させた瑠花は、そわそわした様子で朔也に話しかけた。

゛穂積堂゛はその後の瑠花の人生を決定づけたと言っても過言ではない場所。

瑠花は、穂積ソワンデシュヴに入社し、そこで自分が納得のいく商品を開発するまでは穂積堂には立ち寄らないと決めていた。

その事に何か意味があった訳ではないのだが単なる願掛けのようなものだ。

゛夢を、目標を与えたくれた穂積堂にふさわしい商品の開発に関わる゛

それが引きこもりだった瑠花を長い間支え続けてくれた穂積堂への恩返しでもある。

そういったわけで、

瑠花は、仕事とはいえ目標を達成する前に穂積堂を訪れることになってしまったことは残念で仕方がない。

とはいえ、これも仕事だ。

志半ばとはいえ、俺様上司の・・・いや、会社の命令に背くわけには行かない。

笑顔から一転、溜め息をこぼした瑠花に

「どうした?穂積堂に行きたくない理由が何かあるのか?」

と、怪訝そうな顔で朔也が尋ねた。

「いえ、何でもありません」

瑠花の都合がどうであろうと会社に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

研究開発の瑠花がまさか現場に赴くことがあるとは思いもしなかったが・・・。

゛こうなったら12年ぶりの穂積堂をとことん満喫してやる゛

そう心に誓い瑠花は心の中でガッツポーズをしてやる気をみなぎらせていた。
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