美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~
「すまない、このあと長野の工場に飛ばなければならなくなった」

イベントホールに駆け込んできた朔也の様子から、瑠花は主にヘアケア商品の容器を製造している地方の工場で何かが起こっていることを悟った。

「瑠花、一人で自宅まで帰れるか?」

「大丈夫です。心配しないでください」

これ以上、プライベートな時間を共有していたら知りたくもない自分の感情に飲み込まれそうだと不安に思っていた瑠花には、かえってこの状況は好都合だった。

「朔也くん、またトラブル?」

゛また゛という不穏なワードに、瑠花は眉を寄せたが、

「ええ、゛また゛です」

と、答える朔也はまるでトラブル対応に慣れっこだという態度で、表情も変えずに穂積堂から足早に去っていった。

「また、ってそんなにトラブルが多いのですか?」

「まあね、主に狸と爬虫類のご機嫌を損ねた時に多く発生するかな?」

それが、狭間部長と但馬課長を意味しているのはわかるが、そんな人達をトラブルクレーム対応部門に配置して大丈夫なのかと、瑠花は会社の将来を危ぶんだ。

゛まあ、いいか・・・゛

いや、ちっともよくはないのだが、瑠花個人としては朔也と離れることができて御の字と言えた。

その点に関してだけ言えば

゛狭間&但馬、グッジョブ!゛

と言ってやらないこともない。

二人の腹黒さを十分理解し利用してきた瑠花だったが、研究開発課以外にも触手を伸ばしていたと知っては黙っていられない。

今後は、奴らを完全に敵認定して、瑠花は穂積ソワンデシュヴを守っていこうと心に誓った。
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