美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~

ヒール登場と双子の救世主

なんだかんだと慌ただしく、瑠花をここに連れてきた張本人の朔也は穂積堂から去っていった。

いつか目標を達成し胸を張って穂積堂を訪れることを夢見ていた瑠花だったが、朔也に諮られ意図せずとはいえ穂積堂に足を踏み入れてしまった今では、その夢も泡と消えた。

この際、開き直って、自分が開発に携わった商品がどのように展示販売されているのかを確認し、販売のノウハウをしっかりレクチャーしてもらおうと瑠花が意欲を見せた、そのときであった。

「湯川店長、ご機嫌はいかが?」

と、瑠花の後方から甲高く耳心地の悪い女性の声がした。

「浅子様・・・」

突然の登場に驚いたのか、湯川店長の目が大きく見開かれている。

「あら、可愛いお客様ね?もしかして、そこの
あなたの瞳はオッドアイなのかしら?さては、研究開発課の三角主任ではなくて?そうそう、あの但馬課長のお気に入りの」

それは、先ほど話題に上がった゛時の人゛である狭間四姉妹の長女そして副社長夫人の、穂積浅子その人だった。

襟を立てたシャツにロングスカートという出で立ち。

夜会巻きしたヘアスタイルに派手な化粧の彼女の隣には、お付きの女性が二人控えめに立っている。

確かに化粧した顔は絶世の美女に見えないこともない、かもしれないが、彼女が醸し出す雰囲気は、まるでお伽噺の中の意地悪な継母そのもののように見えた。

それに、聞き間違えかもしれないが、彼女は何か不穏な言葉を口にした気がする。

゛但馬課長のお気に入り?゛

瑠花はそれを聞いて、心底嫌そうな顔をしている自覚があった。

但馬に嫌われている自覚は大いにある。

お気に入りなんてとんでもない、と声を大にして言いたいくらい不快だ。

「確かに私は研究開発課主任の三角ですが、但馬課長に嫌われている自覚はあってもその逆はあり得ません」

と、大きく首を振って否定した。

「あら、但馬課長は照れ屋だから素直になれないのよ。一方通行の恋なんて可哀想」

あの爬虫類課長のどこが照れ屋だというのか?

あんなツンツンがもしデレたとしても全くときめかない。

それどころか冗談でも一方通行の恋とか気持ちが悪くて吐き気がしそうだ。

そういえば、朔也もツンツンデレ甘認定だが、瑠花が彼のことを気持ち悪いと思わないのは、やはり朔也がイケメンだからなのだろう。

゛イケメンマジック恐るべし・・・゛

瑠花はやはり朔也のイケメンオーラに惑わされているだけだった、と思い直し、もうこれ以上は惑わされないぞ、と決意を新たにした。
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