初恋エモ
☆
「ねーちゃん、飯まだー?」
「待ってて。あと少しだから。あ、そこのお弁当食べていいよ」
「まじ? やったー!」
母は今日夜勤のため、家には私と弟の真緒だけ。
真緒は小学1年生。年は10歳近くも離れている。
母がいない日は私が面倒をみなければならない。
それにしても、今日は本当に疲れた。
穂波さんはじめクラスの子となじめなかった。
男女の別れ話に巻き込まれ、反射的に協力してしまった。
クノさんと対面できたのに、何も伝えられなかった。
ちなみに昼休みの女子たちの会話の中で、かっこいい先輩として、もちろんクノさんの名前も挙がっていた。彼は有名らしい。
あとミハラさんという名前も。確かクノさんと一緒にバンドやってた人だったような。
「ねーちゃんスマホ貸してー。ゲームしたい」
「今日はダメ。通信料ギリギリだから」
「えー貸してよー貸してよー」
「そろそろ寝る時間だよ。歯磨きしてきなさい」
「ちぇー」
自分の時間が持てるのは真緒が寝た後。
それまでは宿題をやらせたり、遊び相手になったり、洗い物や洗濯をしたり。休む暇はない。
早くアルバイトをして家計を助けなきゃ。
クラスの友達とどうやったら仲良くなれるのだろう。
クノさんはやっぱり性格最悪な人で、音楽もやっていなさそう。
好きなバンドの動画を見たいのに、スマホは通信制限ぎりぎり。
それよりも。
「はぁ……」
布団にもぐりこみ、クノさんの曲を再生する。
私はクノさんに憧れて、この高校へ来た。
偶然、話す機会もあった。また会う機会があるかもしれない。
また彼のライブが見れればいいの?
ファンですって言って、握手してもらえばいいの?
いや、どれも違う。きっと満たされない。
じゃあ私はどうしたらいいの?
いくら考えても、答えは出なかった。