初恋エモ
「穂波さん、ここで食べてたんだ」
私がよくお昼を食べていた、理科室奥の階段に彼女はいた。
暖房が届かないこの場所は寒く、私も最近は行っていない。
「何?」
彼女は笑うと可愛いのに、機嫌が悪くなると迫力のある表情になる。
ビビったけれど、頑張って笑顔を作った。
「よかったら、一緒に食べない?」
「一人がいい。あっち行って」
追い払われてしまい、階段をのぼろうとする足が止まった。
いいや、負けるな私。
「私、友達いない状態でこの高校来て、すっごく不安だった。だから、穂波さんが声をかけてくれた時、嬉しかった」
震えた声で思いを伝えたが、
穂波さんの面倒くさそうなため息が階段に響いた。
「別に。あんた言うこと聞いてくれそうだったから。友達できるまでのつなぎにしようと思っただけ」
係を変わってあげたり、飲み物を買いに行ったり。
頑張って穂波さんの機嫌を取ろうとした日々が懐かしい。
今となってはそこまでする必要はなかった。
残念ながら性格が合わなかった。ただそれだけのこと。
穂波さんのカバンには有名イケメンバンドのラバーバンドがつけられている。
もしかしたらバンド系の音楽に興味を持っているのかもしれない。
初ライブの時も、私に気づくまでは楽しそうにステージを見ていたし。
「ねぇ、今度ライブ、来ない? クノさん彼女と別れてバンドに本気になってるし、人気も出てきたんだ」
クノさんの情報をエサにするのはずるいかも。
と思いつつ、彼女の背中に向かって訴えた。
穂波さんが来てくれれば自分の集客目標を達成できる。もちろんそれもあるけれど。
この高校で初めて私に声をかけてくれた彼女が、今、教室で孤立している状態。
そのことに、私はもやもやしていた。
彼女のノリについていけない時が多かったけれど、私はいじめられていない。
むしろ一緒にいなくていいよ、と怒られたこともある。
彼女なりに踏みとどまったのではないか。
私の言葉を無視してどこかへ行こうとする穂波さんに、最後こう伝えた。
「日常を忘れられるくらいの楽しいライブするから。待ってるね!」