初恋エモ
「あれっ?」
さっきの怖そうなお兄さんがステージに上がっていた。
シールがたくさん貼られたレスポールギターを肩から下げている。
「クノさんクノさん!」
「あ? なんだよ」
「このバンド、そんなにすごいんですか?」
慌てて人混みの中からクノさんを探し、聞いてみる。
すると、「あー『STARFISH』? 最近フェスにも呼ばれててメジャー間近って聞いたけど。陽キャっぽくて俺は苦手」とのこと。
クノさんはあまり好きではないらしい。
でも、そんなすごいバンドの人が私たちを気に入ってくれた。
「さっきあのギターの人が音源買ってくれました!」
興奮気味にクノさんに報告すると、彼はキラキラした目になり、
「まじ? ちょっと俺前で見てくるわ」
と、お客さんをかきわけステージ近くへ向かって行った。意外と単純。
STARFISHのライブはすごかった。
ポップなメロディーが映える、女子ボーカルの伸びやかな声。
力強いドラムに、暴れまくるギター。
そして、ベースが超絶テクかつ超絶イケメン。見てるだけでドキドキするくらいの。
お客さんの熱気がライブをさらに盛り上げ、曲が終わるごとに歓声に包まれる。
実力の違いを見せつけられた。
「すげーな。ジャンルは違うけど、見せ方とか勉強になったわ」
ライブ後、クノさんは遠い目でそうつぶやいた。
特にギターがカッコよかったとのこと。確かにあの人、クノさんと気が合いそうだ。