初恋エモ
「うわ、ぎゅうぎゅうですね」
ライブハウスには満員のお客さん。スクリーミンズの出番はもちろんトリ。
お客さんとお客さんの間をクノさんと進み、ステージ近くへ到着。
「スクリーミンズ始めるぞおらあぁぁぁああ!」
ステージ後方のライトがまばゆく光り、逆光になったメンバーがいっせいに音を鳴らした。
キャーという高い声援と、ウォーという野太い声援。
たくさんの歓声が彼らを迎える。
ステージでは、昔からやっている定番曲を中心に、迫力のあるライブが繰り広げられていた。
「やっぱすげーな。かっけーな」
隣でライブを見ているクノさんはそうつぶやく。
私も拳をあげ、ノリノリでライブを楽しんだ。
ライブの中盤、ボーカルはマイク片手にお客さん一人一人の顔を見つめた。
「これから新曲やります。スクリーミンズが新しいステージに行くための曲たちです。ついてきてほしい」
このMCを合図に、全国デビューのCDに入っている曲が奏でられた。
歌詞は英語じゃなくて、日本語。
ボーカルはシャウトをせず、メロディをなぞる。
初めて聴いても分かりやすい、だけど、今までのスクリーミンズっぽくない曲が続いた。
クノさんは首をかしげた。
お客さんも盛り上がってはいるものの、やや戸惑いの空気も流れている。
MVを見た時点で予想はできていたけれど、前半にやった定番曲の方がスクリーミンズの個性が出ているように思えた。
なにしろ、葉山さんのドラムが窮屈そうだった。
曲に合わせたドラムを叩かされているように見えた。
無駄な自己主張はせず、バンドのために最善をつくす。
確かに今ステージにいる葉山さんはそのスタンス通り。
だけど、いつもみたいに楽しそうじゃない。
その証拠にメンバーと目を合わせず、もくもくと音を鳴らし続けている。
「なんか曲調変わったよね」
「あれはあれでいいと思うけど」
ライブ終了後、お客さんから賛否両論の声が発せられていた。
「何か似たり寄ったりのバンドになった感じするわ」
クノさんもどこか残念そうな顔。
バンドの方針なら仕方がないのだろうけど、葉山さんは納得しているのだろうか。