初恋エモ
バイトをささっと終えた私は、セミの声をBGMに自転車を走らせ、クノさんの家へ向かった。
「美透ちゃんおかえりー!」
「おい、スーパー店員、何か持ってきたかー?」
ドアを開けた瞬間、いつもよりテンションが高いクノさんと葉山さんに迎えられた。
ちゃぶ台の上にさっき買ったお酒や惣菜がところせましと並んでいる。
二人のノリについていけない私は渋い表情を作り、空っぽの缶をビニール袋に入れてから、お土産のスナック菓子を机に置いた。
「ええええ、本当ですか?」
しかし、クノさんからのお知らせを聞いて、私もテンションが一気に上がった。
それは、フェス出場権をかけたコンテストの一次審査が通ったこと。
入賞すれば、なんと去年ミハラさんと行ったあの冬フェスに出ることができるんだって! すごい!
スマホで調べると、一次選考の書類審査&音源審査を突破したのは約200組。
毎年2000近くの応募があるらしいから、なんと倍率10倍の戦いに勝ってしまった。
しかし道のりはまだ長い。
次の二次選考で30組まで絞られ、最終選考のライブ審査で、入賞グループが決まる。
入賞グループは毎回だいたい1~2組らしい。
その後ブレイクしたバンドも多く、若手の登竜門的な有名コンテストだ。
透明ガールはまだ結成一年。
MV一つ、CDも自主制作の一枚だけという状況。
大きな会場でのライブ経験もなく、コンテスト出場はまだ早いと思っていた。
エントリーのきっかけは、クノさんがSTARFISHのギターさんに相談したところ、秒で「やれ」と言われたこと。
「やっぱフェスは見るものじゃなくて、出るものなんだよ」
クノさんは得意げな顔で、ぐびっと缶を飲みほす。
いやまだ出れるとは決まってませんけど!
二次選考は、MVと音源を公開した上での一般投票。
曲を聴いてもらういいチャンスだし、たくさんの人に投票してもらえるよう、告知やライブを頑張ろう。