初恋エモ
#5 不透明エモ
1
☆
「あ」「あ」
トイレの洗面所で手を洗っていると、自分の声がよく知っている声に重なった。
「ほ、穂波さん! 久しぶりだね!」
鏡越しに見えたのは、あの穂波さんだった。
去年よりメイクが薄くなっていて、元の顔の可愛らしさが引き立っている。
「久しぶりって……ライブたまに行ってるけど」
「そうだよね! ありがとう!」
「別に間宮さんを見に行ってるわけじゃないし」
去年のあれこれを思い出し、少しだけビビったけれど。
笑顔を直接向けると、とげとげしい口調ながらも私と会話をしてくれた。
去年もこれくらい私が心を開けていれば、もっと仲良くなれたのかもしれない。
じゃあまた、と言って、教室に戻ろうとしたら。
「あ、投票しといたから。クノさんにも言っといて」
手ぐしで髪型を整えながら、彼女はそう口にした。
「本当? ありがとう!」
「だからクノさんのためだってば。後ろ並んでるし早く行きなよ」
入学当初は面白くないのに笑って、クソみたいに愛想振りまいて、どんどん自分をすり減らしていた。
今は違う。
穂波さんとコミュニケーションが取れるようになったし、クラスの友達とも心から笑えている。
クノさんと出会って、バンドを始めてから、他人と自然に接することができるようになった。
彼と本心でぶつかりあって、新しい世界を経験して、壁にぶつかって、乗り越えて……を繰り返したから、だろうか。