初恋エモ

2






ミハラさんの申し出は、透明ガールのサポートメンバーとしてドラムを叩きたい、ということだった。


「じゃあやりましょう!」


スタジオの大きな鏡に映し出されたのは、ギターを弾き始めるクノさん、ベースを構える私。

そして、ドラムセットに座ったミハラさん。


「……っ!」


クノさんはギターを鳴らし、歌を響かせる。

その音が空気を揺らし、スネアドラムの表面を震わせた。


もうすぐ、ベースとドラムが一緒に入る部分だ。


私はミハラさんに視線を向けた。

彼は音だけに集中しているのか、下を向いていた。


入りはコンマ何秒かずれたものの、その後は必死にミハラさんの動きにベースを合わせる。


もちろん葉山さんのドラムには敵わない。ぎこちなさも感じる。


ただ――

時々危ない部分はあったものの、ミハラさんは事前に渡した5曲のドラムを全て最後まで叩き続けた。


「こんな短時間で全部叩けるなんてすごいです!」

「まあライブやCDで曲自体は知ってたから」


驚いてミハラさんに詰め寄ったものの、彼の少し汗ばんだ髪や爽やかな表情にドキッとしそうになる。


イケメンだから少しくらいドラムが未熟でも、バンドの人気には貢献していただけそう。なんて。


「ふーん」


クノさんはチューニングを直しながら、軽く口角を上げた。

ミハラさんの頑張りを認めているのだろうか。


しかし、スタジオに響いたのは、マイクを通して増幅された嫌味っぽい声だった。


「よく頑張ったじゃん。"お前にしては"、な」


クノさんは、友達にも容赦ないらしい。

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