初恋エモ
2
☆
ミハラさんの申し出は、透明ガールのサポートメンバーとしてドラムを叩きたい、ということだった。
「じゃあやりましょう!」
スタジオの大きな鏡に映し出されたのは、ギターを弾き始めるクノさん、ベースを構える私。
そして、ドラムセットに座ったミハラさん。
「……っ!」
クノさんはギターを鳴らし、歌を響かせる。
その音が空気を揺らし、スネアドラムの表面を震わせた。
もうすぐ、ベースとドラムが一緒に入る部分だ。
私はミハラさんに視線を向けた。
彼は音だけに集中しているのか、下を向いていた。
入りはコンマ何秒かずれたものの、その後は必死にミハラさんの動きにベースを合わせる。
もちろん葉山さんのドラムには敵わない。ぎこちなさも感じる。
ただ――
時々危ない部分はあったものの、ミハラさんは事前に渡した5曲のドラムを全て最後まで叩き続けた。
「こんな短時間で全部叩けるなんてすごいです!」
「まあライブやCDで曲自体は知ってたから」
驚いてミハラさんに詰め寄ったものの、彼の少し汗ばんだ髪や爽やかな表情にドキッとしそうになる。
イケメンだから少しくらいドラムが未熟でも、バンドの人気には貢献していただけそう。なんて。
「ふーん」
クノさんはチューニングを直しながら、軽く口角を上げた。
ミハラさんの頑張りを認めているのだろうか。
しかし、スタジオに響いたのは、マイクを通して増幅された嫌味っぽい声だった。
「よく頑張ったじゃん。"お前にしては"、な」
クノさんは、友達にも容赦ないらしい。