初恋エモ
3
☆
ライブ審査まであと3週間。残りのライブはあと一本。
前々から予定を入れていた、いつものライブハウスでの対バン形式のライブだ。
地方のハコ、かつ出演時間は30分だけなのに、最終選考に残ったからか、チケット予約の連絡が飛ぶように来た。
他県から来るという人もいた。
きっと『ブルー/イエロー』のMVやアップした音源によって、私たちを生で見たいという人が増えたんだ。
本番前、フロアをざっと眺める。
翠さんや穂波さん、学校や中学時代の友達をはじめ、いつも来てくれるみんなの姿が見えたものの。
それ以上に、フロアを埋め尽くしているのは、初めて見た人たち。
学生風の若者から大人まで。いろんな人が、準備中のステージを眺めながら、私たちのライブを待ってくれていた。
「今までで、一番集まってるかもしれないです」
楽屋に戻り、二人にそう伝えると、
「おもしれーじゃん」
ギターのチューニングを整えながら、クノさんはニヤリと笑う。
「…………」
ミハラさんは練習用パットをひたすら叩いている。
耳にはイヤホン。繋がれたスマホには、音楽じゃなくてメトロノームのアプリが映し出されている。
ちなみにこのパットはクノさんがプレゼントしたらしい。
「ありがとうございましたー! 最後まで楽しんでいってください」
前のバンドの演奏が終わり、まばらな拍手が壁越しに聞こえた。
そろそろ行くぞ、とクノさんが合図し、ミハラさんははっと顔を上げた。
驚いた様子でイヤホンを外し、椅子の足につっかえながら立ち上がる。
ミハラさんは珍しくテンパっている。
そりゃそうか。透明ガールとして初めてのライブだ。
クノさんと顔を見合わせてから、二人でミハラさんを引っ張った。
戸惑う彼に笑顔を見せると、ようやく軽く笑ってくれた。
そして、
「全力出すぞ!」「おー!」
三人で円陣を組み、気合を入れてからステージへ向かった。