初恋エモ

ミハラさんは先に帰ったため、今はクノさんと二人。


「なんかあった?」


そう聞かれ、私は眉間にしわを寄せ「大変なミスをしました」と答えた。


慌てて『今日バイト休みになったから、友達の家にいる』と母に返信すると、すぐに着信があった。

ドア近くに移動し通話をタップした。


『美透? 何で連絡しないの? 何時に帰ってくるの?』


耳から母の声が押し寄せてくる。

目をつぶり、口元を手で隠して話をした。


「ごめんなさい。あと20分くらいで帰ります」

『たまに夜遅い時あるじゃない。その友達のせいなの? まさか男?』

「ごめん……今電車だから、後でかけ直す」


そう伝え、終話をタップしようとしたが。


『それとも、まさか本当にバンドやってるの? 真緒から聞いたけど、嘘よね?』


母のヒステリックな声により、心臓が嫌な鼓動を鳴らした。


すでに真緒から情報を仕入れてしまったらしい。

小2の弟に秘密を背負わせるなんて、無理があったか。


『聞いてるの? 答えな……』


カツッ。爪で終話を強くタップし、母の話を切った。


この様子じゃバンドやってること、絶対に許してくれなさそう。

いっそ彼氏できたってことにした方が、安全かもしれない。


嫌なもやもやが心の中へ広がっていく。


落ち着こうと息を深く吐いてから、クノさんにすみません、と謝った。


「親?」


と、彼は表情を変えずに聞いてきた。


「はい。今まで上手くやれてたんですけど、そろそろ限界かもしれません」


あはは、と乾いた声で笑い、再びため息を吐く。


どうしてこのタイミングなんだろう。

今、つまづいてなんかいられないのに。


「フェス出たらもっと噂なるだろうし、絶対バレるっしょ」

「……まあ、そうですね」


電車は地元の駅に到着した。

母に電話かけ直すって言ったけれど、気が乗らなかった。

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