初恋エモ
自転車を軽くこいで、クノさんの家へ到着した。
ここから私の家までは自転車で15分。
いつもはベースを彼の部屋まで持っていくけれど、今日はクノさんにお願いすることにした。
ベースを背中から降ろし、クノさんに渡したが。
「クノさん、私……やめたくない」
彼がそれを受け取る直前に、心の声が漏れた。
「いざとなったら家出して、ここに住まわせてもらってもいいですか?」
無理なお願いだと思うけど、これしか手段はない。
ぎゅっとベースケースをつかみ、クノさんに訴えた。
近くの街灯により、震える私の影がかすかに黒いケースに写し出される。
「…………」
クノさんは夜空を見上げ、考えごとをしてから、
「お前の母親、介護職つってたけど、どこで働いてんの?」と低い声で聞いてきた。
「え、隣町の介護施設です」
「なんてとこ?」
母の勤務先の施設名を伝える。どうしてそんなこと聞くのだろう。
ベースが突き返される。
彼はギターを背負ったまま、再び自転車にまたがった。
「親、説得しよ。俺も行くから」