初恋エモ
☆
話があると母に連絡してから、クノさんと一緒に家へ向かった。
母がマンションの入口で待っていたため、
「まずは私から話してきます」と伝え、クノさんには近くで待ってもらうことに。
自転車を停め、母に「ただいま」と伝える。
母の表情は一気にこわばった。
私が、大きなベースケースを背負ったままだから。
「美透、あんた……!」
「ずっと嘘ついててごめん。私、文芸部じゃなくて、バンドをやってる」
頭上には、雲に覆われた夜空。
目の前には、言葉を失い口を震わせている母の姿。
怖い。怒られる。いや、負けるな私。
「バイトも家のことも、ちゃんとやるから。バンド、続けさせてほしい」
祈るようにそう伝え、深く、頭を下げる。
ベースケースのいびつな影が私の影に重なる。
すぐに震えた母の声が頭上から降ってきた。
「美透も高校生だから、部活や友達付き合いも大事にさせたいと思って、夜が遅くても多少は目をつぶってた。でも……」
途中で言葉が止まったため、ゆっくり頭を上げると。
「バンドって、ただの遊びでしょ? どうしてそんなもの!」
その言葉を皮切りに、母のヒステリックな声が次々と私を襲った。
美透はそんな子じゃないでしょ?
真緒もまだ小さいのに、お姉ちゃんとしての自覚あるの?
お母さん家族のためにこんなに頑張ってるのに、ひどいじゃない!
まるでチューニングが狂った楽器の演奏を聴いているみたい。
違和感を帯びた気持ち悪さが、私を包んでいく。