初恋エモ





話があると母に連絡してから、クノさんと一緒に家へ向かった。


母がマンションの入口で待っていたため、

「まずは私から話してきます」と伝え、クノさんには近くで待ってもらうことに。


自転車を停め、母に「ただいま」と伝える。


母の表情は一気にこわばった。

私が、大きなベースケースを背負ったままだから。


「美透、あんた……!」

「ずっと嘘ついててごめん。私、文芸部じゃなくて、バンドをやってる」


頭上には、雲に覆われた夜空。

目の前には、言葉を失い口を震わせている母の姿。


怖い。怒られる。いや、負けるな私。


「バイトも家のことも、ちゃんとやるから。バンド、続けさせてほしい」


祈るようにそう伝え、深く、頭を下げる。

ベースケースのいびつな影が私の影に重なる。


すぐに震えた母の声が頭上から降ってきた。


「美透も高校生だから、部活や友達付き合いも大事にさせたいと思って、夜が遅くても多少は目をつぶってた。でも……」


途中で言葉が止まったため、ゆっくり頭を上げると。


「バンドって、ただの遊びでしょ? どうしてそんなもの!」


その言葉を皮切りに、母のヒステリックな声が次々と私を襲った。


美透はそんな子じゃないでしょ?

真緒もまだ小さいのに、お姉ちゃんとしての自覚あるの?

お母さん家族のためにこんなに頑張ってるのに、ひどいじゃない!


まるでチューニングが狂った楽器の演奏を聴いているみたい。

違和感を帯びた気持ち悪さが、私を包んでいく。

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