初恋エモ
本来なら母に苦労をかけないよう、謝って、協力して、お金も出して、いい子であり続けるべきだ。
だけど、私にも譲れないものがある。
「お母さん、聞いて……」
「言い訳なんて聞きたくない! その背中のものは何? 楽器? いくらなの? いつの間にそんなの買ったの?」
「だから……」
「家が苦しいのは分かってるんでしょ? そんな金あったら真緒のために使ってあげなさいよ!」
いくら気持ちを伝えようとしても、母は私の声を消し続けた。
頭が限界に近づいてくる。
イライラした気持ちが込み上げてくる。
『美透はやりたいことないからしょうがないよね』
いつも母にそう言われてきた。
バンドをやる前は自分でもそう思い込んでいた。
何も言えなかった私が悪いけれど。
きっと母はそう決めつけて、私を自分の思い通りに動かしてきたんだ。
『だから、真緒がやりたいって言うことを一緒に叶えてあげようね』
いつも母は真緒をひいきして、私に我慢を強いる。
面倒をみさせて、家事をやらせて、お金も出させる。
まわりの反対を押し切って産んだ真緒に不自由ない生活をさせることで、自分は間違っていなかったことを証明したいだけのくせに。
ふざけんな。どこまで私は都合のいい存在なんだ。
「……私はお母さんの奴隷じゃない」
かすれた声で母にそう伝える。
母の目は呪われたように見開かれる。
――パァン!
頬に衝撃が走った。痛みなんか感じなかった。
気がつくと、私は背負っていたベースケースを降ろし、母に向けてぶつけようと振りかぶっていた。
突然の私の行動に、母は肩をすくませる。
しかし、突然ケースが後ろに引っ張られ、手元からぱっと消えた。
「……何してんだよ」
はっと振り返ると、私のベースケースを手にしたクノさんがいた。
母に思いっきりぶつけようとした瞬間、クノさんに奪われたらしい。
「あ……」
「もし壊れて、本番にメンテ間に合わなかったらどーすんの?」
冷静にそう口にするクノさんのおかげで、私は我に返った。
一体、私は何を……!?