初恋エモ
「すみません、本当、いろいろ……」
母に買い物を頼まれた私は、バイト先のスーパーへ。
クノさんの帰り道と同じ方向であるため、りーんりーんと心地よい虫の声が聞こえる中、二人で川沿いの道を進んだ。
「ま、とりあえず続けられることになったじゃん」
クノさんは軽く口角を上げ、私を横目で見た。
「でもコンテスト終わったら、どうなるか分かりません」
とため息をつくと、
「うるせぇ、まずは目の前のことに集中しろよ」と怒られた。うう。
スーパーへ曲がる交差点にさしかかる。
お互い自転車を止め、何となく顔を見合わせた。
「…………」
きっと言いたいことや聞きたいことがあったんだと思う。
私も、クノさんも。
でも今は余計な情報を頭に入れたくなかった。
まずはコンテストまで駆け抜けなければいけないから。
「これからは家でもベース練習できるじゃん」
「あ、そうですね!」
「期待してるから」
去り際にクノさんはそう言って、優しく笑った。