初恋エモ
クノさんは練習タイムが始まると、しばらく話をしなくなる。
私もベースを触りたくなったため、ミハラさんと一緒に彼の家を後にした。
「あ~マジで自分が嫌になる。本当情けない」
ミハラさんはふらふらと土手へ向かい、頭を抱えしゃがみこんだ。
真っ黒い川が彼の弱音を飲みこんでいく。
「クノはああ言ってるけど、前のドラムさん上手すぎなんだよ。クノも美透ちゃんもレベル高すぎだし。俺なんていくら頑張っても所詮素人……」
「私はミハラさんと一緒にやりたいです!」
彼の言葉をさえぎりそう伝える。
ミハラさんは驚いた目で私を見上げた。
「だって、ミハラさんはずっと私たちを応援してくれてたじゃないですか。悩み聞いてくれたり、声かけてくれたり。私はすごく救われてました」
まわりで揺れる雑草から、心地よい虫の声が聞こえてくる。
私も彼の隣にしゃがみ、目線を合わせた。
「フェスに連れて行ってくれたのもすごくいい思い出です。ミハラさんとたくさんのライブを見て騒いで、すごく楽しかったので。
だから、あのフェスに一緒に出れたら最高じゃないですか?」
フェスに出る自分たちの姿を想像し、テンションがあがる私。
勢いのままミハラさんに顔を近づけていたため、慌てて一歩離れようとした。
しかし、
「うわっ!」
急に腕が引かれ、彼の胸元へ飛び込む形に!
離れようとしても、彼の手により頭が固定され、身動きが取れない。