初恋エモ
とは言え、クノさんの家には包丁がないため、カット野菜やしめじ舞茸と、入れるだけでOKのものを購入。
こんなん誰でも作れるでしょ、と思いつつ。
クノさんの家に戻ると、男子二人は動画を見ながらわいわいしだしたため、私が準備することにした。
「美透ちゃんの手料理だ。嬉しい。美味しい~」
味薄くね? と文句を言いながら食べるクノさんに対し、イケメン笑顔を向けてくれるミハラさん。
私も食べてみると、水を入れすぎてしまい薄味だった。う……失敗。
男子二人はもりもり食べてくれたため、すぐ空っぽになった。
「腹いっぱい。食いすぎた」
洗い物を終え振り返る。
クノさんもミハラさんも寝っ転がってスマホをいじっていた。
食べてすぐ横になったら太りますよ、って……二人とも痩せすぎだからいっか。
「俺、他人と一つのことに向かってこんなに努力したの、初めてかもしれない」
ふとミハラさんがつぶやいた。
パソコンからは切なげなロックが流れている。
その曲調と相まって、彼の気持ちがすっと胸に入ってくる。
ミハラさんは、たどり着きつつあるのかもしれない。
自分が目指した先へ。
しかし、クノさんは鋭い声で穏やかな余韻をかき消した。
「他人じゃねーよ。お前は透明ガールのドラマーだろーが」
ミハラさんは、がばっと上半身を起こす。
「え……俺サポートじゃないの?」
「あ、すみません。プロフィール書きかえちゃいました」
私はそう伝え、コンテストサイトの透明ガールのページをミハラさんに見せた。
『透明ガール
vo>クノエイキ、baマミヤミト、drミハラオキヒト
結成1年半 平均年齢18.2歳
〇〇市を拠点に活動中のスリーピースロックバンド』
まじまじとスマホ画面を見つめるミハラさん。
クノさんは得意げな顔で言った。
「どう? エモいっしょ」