初恋エモ
#6 犠牲・フライ・アゲイン
1
☆
「美透、どこ行くの?」
「え……ちょっとバンドの用事が」
気がつけば、ライブ審査本番の日。
東京まで出なければならないため、早起きをして、母と真緒が寝ている間に家を出ようとした。
が、母に見つかってしまった。
「もしかして、今日がコンテストの日なの?」
ぎくり。背負ったベースがぐっと重くなる。
急ぐから、と言って、慌てて靴を履きドアを開けた。
「最後なんだから、頑張ってきなさいよ。クノさんにもよろしくね」
ドアが閉まる瞬間、嬉しそうな母の声がした。
母の中では私がバンドをやるのは今日までになっている。
絶対に最後になんかさせない。
ライブ審査は東京のライブハウスで行われる。
駅で待ち合わせをして三人で向かう予定だった。が。
「すみません、遅くなりました。って、クノさんは?」
改札前には、コートにマフラー姿のミハラさんだけ。
しかもスマホ片手に慌てている。
「どうしよう。ラインしてるけど、既読つかない」
「まさか寝坊ですかね……? 見に行きましょうか?」
電車を一本逃しても時間的には大丈夫なため、ミハラさんと二人で彼の家へ行くことに。
「あれ」
しかし、扉には『いない』札がかけられており、鍵もかかっていた。
同じ敷地内にある叔父さんの家にも行ったが、チャイムを鳴らしても誰も出なかった。
「もしかして、どっかですれ違っちゃいましたかね。駅戻りましょうか」
ミハラさんにそう伝えると、彼は考え込んだ顔になる。
そして、「一応、実家の方も見とく?」と首をかしげ言った。
「え。どうして突然……」
「最近もめてるって言ってたし、よく顔出してるみたい」