初恋エモ
実はコンテスト前の1か月間。
私は親に内緒でバイトをほとんど入れずに、バンドと家のことだけに時間を費やした。
母は激怒したけれど、修学旅行に行かない旨を伝え、許してもらった。
少し減って戻ってきた積立金は、真緒の新しいユニフォームとスパイク代に消えた。
激動の日々が終わり、心が空っぽになったせいか、私は前よりも母の言うことを聞くようになっていた。
修学旅行への未練はあるものの、それ以上に大切なものがあった。
だからこれでよかったんだ、と自分に言い聞かせる。
ただ、一人で過ごす教室は広すぎる。
ここでベースを爆音で鳴らしたら、どんな感じになるんだろう。
低音は振動とともに建物内に響くから、まず、先生が駆け付けてきて、他学年の人が見に来て、怒られて、親が呼び出されて……。
なんて妄想をしながら、もくもくと課題プリントをこなした。