初恋エモ
3
☆
クノさん不在のまま、高2の三学期を迎えた。
教室では、修学旅行の思い出話をするのに気を遣われるくらいで、クラスメイトとはいい関係を続けている。
たまに「早く透明ガール、活動再開してよ」と穂波さんから詰められるくらい。
家でも料理洗濯掃除真緒、家事の全てをこなしているうちに、母の体調も良くなった。
「真緒ー! 帰るよー!」
「ねーちゃん待って」
サッカーコートに真緒を迎えに行く。
彼は笑顔で、私の後ろをついてきた。
ペダルを踏む度に、川沿いのサッカー場や野球場が遠ざかっていく。
後ろでは真緒が小さなスポーツタイプの自転車を漕いでいる。
私がバイトを掛け持ちしたおかげで、買うことがたやつだ。
真緒はみるみるサッカーが上手くなり、U-8の試合のレギュラーになれたとのこと。
しかし。
「ねーちゃん、バンドやめたの?」
最近真緒はサッカーのことより、私のバンドのことをよく聞いてくる。
「え、どうして?」
「六年の先輩に聞けって命令された」
「えー……」
その先輩のお姉さんが透明ガールのファンらしい。
真緒にはバンドのことをいつもにごして伝えているけれど、ちゃんと教えてあげないとその先輩にも申し訳ない気もする。
「いったんバンドは終わり」
そう伝えると、真緒はつまらなそうに「なーんだ」と口にした。
きっと、透明ガールはもう活動できない。
ライブ出演依頼は飛ぶように来ているけれど、全部断っている。
インディーズレーベルからもお声がかかったけれど、しぶしぶ断念した。
きっと、クノさんはこのまま東京へ出て行ってしまうのだと思う。
ミハラさんも第一志望は仙台の国立大学で、滑り止めは東京の有名私立大。
春になれば、二人とも地元を離れてしまう。
透明ガールは活動休止中だけれど、再開は物理的に不可能。
……私は、どうしたらいいのだろう。