初恋エモ
☆
三年生は自由登校期間のため、東京でスクリーミンズのサポートを終えたクノさんはリゾート施設での長期バイトに行ってしまったらしい。
『クノ、明日帰ってくるらしいよ』
ミハラさんからそう連絡がきたのは、なんと二月の終わり。
遅い……どんだけ待ったことか。
たっぷりお金を稼いできたんだろうし、たまには美味しいものごちそうしてほしいくらいだ。
バイトを終え、久々にクノさんの家へ自転車を走らせる。
『いる』札がかけられているため、ドアを開けると、背中を向けてギターを弾くクノさんがいた。
いつも通りの光景に嬉しくなった。
「やっと帰ってきましたね……」
「あー、美透か」
変わったのは、部屋にギターが一本増えたことと、髪の毛にパーマがかかったこと。
「なんか、大人っぽくなりました?」
そう聞くと、「なってねーよ」と一蹴された。
クノさんは東京でスクリーミンズの金髪ボーカルさんの家に居候をしていたとのこと。
そのため、このギターを使えだの、高校生に見えない見た目にしろだの、様々なスパルタ指導を受けたらしい。
ご飯をおごってもらおうと思い、「クノさん、私お腹すきました」と伝えたが。
「はい、これやる」
そう言われ、もらったのは温泉まんじゅう。はい、ありがとうございます……。
彼の手により、ギターから温かい音色が奏でられる。
新しい曲かな。
しばらくその音楽に耳を傾けてから、彼に話しかけた。
「そのまま東京に住み着くと思ってました」
「一応、卒業証書くらい貰おうと思って」
へぇ、とつぶやきクノさんを見つめると。
彼はギターをスタンドに置き、ドアへ向かっていった。
「散歩する。ついてきて」