初恋エモ
澄んだ星空が広がる冬の夜。
土手の下には、街を分断する真っ暗な川が広がっている。
「こうやって夜だらだら歩いてると、いろんなことが頭によぎる」
マウンテンパーカーのにポケットに手を入れ先を進むクノさん。
「なんか、その言葉前にも聞いたことあります」
彼の後ろをついていく私は、そう返した。
バンドを始める前、彼とこの道を散歩したことを思い出した。
野球場に勝手に入って、彼の心の傷を聞いて、私も彼に心を開いて。
それからバンドが始まったんだ。
歩くの遅いと言われ、小走りで彼の横に並ぶと、
「あの時と違って、嫌じゃないことも思い出すよ」
そうつぶやき、彼は口角を上げた。
「…………」
空気は冷たいのに、心が温かくなった。
クノさんと駆け抜けた二年間。
私だけじゃなくて、彼の心にもいい変化がもたらされたんだ、と思ったから。
「東京、どうでしたか?」
白い息とともに、彼に問いかけた。
「あのボーカル、まじで頭イカれてる。サポートっつってるのに、どんだけ働かせるんだよクソが」
楽しかったという感想がくると思ったのに、彼はぶつぶつとグチを吐き出し、石ころを蹴飛ばした。
そういえば葉山さんも言っていたな。
あのボーカルさん、クノさんよりも全然厳しい人だって。
きっと、本メンバー並みの練習とライブを彼に強いたのだろう。
想像がついて、くすりと笑ってしまった。