初恋エモ
☆
三月になり、卒業式が終わった後。
私たちはいつものライブハウスへ向かった。
フロアには満員のお客さん。
翠さんや穂波さん、学校の友達、中学時代の友達等、知っている顔はもちろん。
活動していく中で獲得した新たなファンもたくさんいた。
今日が、透明ガールのラストライブ。
みんなの応援があったからこそ、ここまで続けてこれた。
感謝の気持ちを込めて、最後に一発ぶちかますことにした。
「やばいな、久々だし大丈夫かな」
緊張した様子のミハラさんは、スティックを両手に伸びをして、体をほぐしている。
大学受験を終え、あとは結果を待つのみらしい。
「最後だからってソールドするの、マジ腹立つわ」
クノさんはぶつぶつ文句を言いながら、ギターをじゃがじゃが鳴らしている。
「売り切れないよりはいいじゃないですか」
となだめながらも、私も悔しい思いが込み上げてきた。
本当はもっと早い段階で、チケットが売り切れるようなバンドになりたかった。
最大250人入るこのライブハウス。
スクリーミンズのように、まずここを制覇しなければ、全国では戦えない。
ただ――
本気でバンドと向き合ってきたからこそ、たくさん悔しい思いをして。
その度に、彼も彼なりに考えて、変化をし続けてきた。
暗い自省的な曲から、誰かに向けた救いの曲へ。
より多くの人に届くよう、作る曲のバリエーションを増やした。
そして、ライブで表現することにより、透明ガールは新たなファンを獲得していった。
クノさんは、もうすぐこの街を出ていく。
実家とは決別し、叔父さんも海外を拠点に活動することになったため、もう二度と地元には帰らねーよ、と言っていた。
これからも、きっと彼は音楽で成功するために、前に進み続けるのだろう。
私も一年空白はできるけれど、彼の音楽に寄り添って生きていきたい。
「しゃ、やるか」
お客さんのざわざわ声が扉越しに聞こえた。
そろそろ時間だ。
いつも通り三人で円陣を組み、
「透明ガールラスト、ぶちかますぞ!」「おー!」
気合いを入れて、ステージへ向かった。