初恋エモ
4
☆
まだライブの余韻が残っている。
ギターとドラム、ベースの爆音と、声量たっぷりのクノさんの歌。
お客さんの笑顔や、よかったよ、最高だったよ、という嬉しい声。
「あの、レジいいですか?」
「あ、すみません! いらっしゃいませ!」
やばいやばい。今はバイト中。仕事に集中しないと。
家に帰ったら思う存分、ベースを弾こう。
そう思いながら、バイトを終えた。
「ただいまー」
母と真緒が雑談している中、バイト先で買った食材を冷蔵庫に入れる。
二人は外食したらしく、買ってきた惣菜を片手に自分の部屋へ移動した。
ここは、一つの部屋を真緒と分割して使っている狭いスペースだ。
私はすぐ異変に気がついた。
「え? あれ? なんで?」
布団の横にあるはずのものがない。
私が二年前から大切な相棒としている、あれが。
一気に緊張感に襲われた。
別のとこに置いた? そんなわけない。朝は確かにここにあった。
まさか泥棒? いや、荒らされた形跡はないし、母と真緒もいつも通りだ。
小走りでリビングに戻り、母に聞いた。
「お母さん、ベースどこにあるか知らない?」
真緒とテレビを見ている母は、振り返り、こう答えた。
「売ったよ。だってバンド辞めたんでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、
自分の中にあるすべての嫌な感情が、一斉に心に込み上げた。
母は、再び彼と音楽をやるという未来を奪おうとしている。
どうして? 大人しく言うことを聞いているのに。
真緒の世話だってちゃんとやって、バイトもシフトを増やして、これ以上私に何を求めるの?
「……っ!」
気がつくと、私はたくさんの汚い言葉を発していた。
唖然としている母と真緒をよそに、私は家を飛び出した。
制服のまま上着なしで、自転車にまたがったが。
「なんなの? なんで?」
タイヤが上手く回らない。パンクしてしまったらしい。
「ふざけんな! 死ね!」
自転車を蹴り倒してから、私は夜道を走った。