初恋エモ
灰色の雲の隙間から、星がぽつりぽつりと見えた。
上着なしであることを伝えると、ライブの時によく来ているスポーツ系のナイロンジャケットを被せられた。
「帰りたくありません」
袖を通しながら彼にそう伝えたが、「アホか」と鼻で笑われた。
「嫌です。ここにいたいです」
負けずにダダをこねると、クノさんは顔をぐっと近づけてきた。
「あのさぁ、誘ってんの? 俺のこと」
「ち、違います!」
急な色気にドキッと心臓が震え、慌てて否定した。
すると、彼はぷっと笑って、私の頭をぽんと撫でる。
「家まで送るから」
そう言われても、尚も動かない私。
彼は笑いをこらえながらも、「ほら」と左手を出す。
もう何が何だか分からない。感情が追い付かない。
その手を握ると、強く引っ張られ、足を進めざるを得なかった。
冷たい風が顔に吹き付ける。
彼の手の温もりのおかげで、寒さはそこまで感じない。
「私、クノさんに引っ張ってもらってばかりです」
手をつないだまま、川沿いの道を私の家に向かって進んだ。
しばらく歩くと、河川敷が広くなり、真っ暗な野球場が見えてくる。
「ちげーよ」
クノさんはその方向を見ながらつぶやいた。
「え……」
「俺が、ずっとお前に支えられてたんだよ」
ぎゅっと手が強く握られ、あたたかな鼓動が胸を刻んだ。
彼と過ごした二年間には、意味があった。
そう実感できて、再び涙がこぼれた。
私は、彼にとって透明じゃない存在になれたんだ。