初恋エモ
4
☆
私のバイト先はクノさんの行きつけの店らしいけれど、バイト中に彼を見かけることはなかった。
音源サイトにも曲は増えていない。
そんな日々が続く中、
「クノさんから連絡あった! カラオケ誘ったら、いいよって」
「まじ? ミハラさんも来るの? やばいうちらも歌の練習しなきゃ~」
穂波さんのアプローチにより、再びクノさんと会う機会ができた。
私はメンバーに入っていないと思ったが、男子が4人来るから女子も4人で来てと言われたらしく、一緒に行くことに。
待ち合わせ場所である下駄箱前に向かう。
その途中で先生とすれ違った。
「穂波、お前今日、図書館当番じゃないのか?」
「あ」
サボるなよ~! と言って、先生は去っていく。
穂波さんはげっそりした表情になった。
「うっそ~委員会のこと忘れてた。まじダルい……」
穂波さんは今日、放課後の図書館係の日だった。
どーする? 先行ってる? でも図書館終わるのの夕方だよ?
目の前には困った様子で相談し合う女子たち。
みんな今日のカラオケ会を楽しみにしてきたのは、知っている。
男子たちが好きそうな曲をリサーチして練習したらしいし、穂波さんは気合いが入ったメイクをしている。
「あーあ。誰か代わりに行ってくれないかなぁ」
穂波さんはちらりと私に視線を向けた。
他の女子も早く解決したいという空気を出している。
「じゃあ、私が行こうか?」
そう伝えると、穂波さんは一瞬だけ嬉しそうな顔を浮かべ、すぐ申し訳なさそうな表情を向けてきた。
「でも悪いよ。しかも、何したらいいか分からないでしょ?」
「私もたまに本借りるし、何となく仕事分かるから」
本当ごめんね! 今度埋め合わせするから! 後で写真送るね!
穂波さんの声をBGMに図書室へと足を進めた。
これでいいんだ。穂波さん喜んでくれたし。
ただ、うすうす気づいてはいた。
私、いつも頑張って穂波さんたちに話を合わせているのに。
彼女らにとって、きっと私は都合のいいだけの存在なんだろうな。