初恋エモ
「この前クノさん来なかったし、また誘ってみようかな~」
穂波さんはつるつるのネイルをいじりながら、口を尖らせている。
彼女は入学式の時と比べてメイクが洗練され、クラスのイケてる男子にも絡まれ始めていた。
「聞いた? あの日クノさん図書室に来たらしいよ」
「なんで? うっそ、じゃあ当番私が行けばよかった!」
友達からの情報に、悪びれることなく穂波さんはそう口にする。
勝手な事言いやがって。
代わってほしいなぁ~ってお願いしてきたのは穂波さんなのに。
「クノさん、本借りに来ただけ。すぐいなくなっちゃったよ」
彼女の発言にもやもやしたものの、当たりさわりのない言葉を私は伝えた。
いつも通りのことだ。
しかし。
一瞬、間があいてから。穂波さんたちは顔を見合わせて笑い合った。
「もしかしてクノさんって、間宮さん狙い?」
「いやいやそんなわけないよね~。全然間宮さんとは釣り合わないし。見た目も性格も」
あれ。また軽くディスられた?
と思いつつも、私もクノさんに興味ないから、と冗談っぽく伝える。
「間宮さん、それぜいたくすぎ! あのクノさんだよ?」「前に彼女のフリ頼まれたからって調子乗ってる~?」
「あはは~そんなわけないよ。私には遠い人って感じがするだけ」
自分でも薄っぺらい笑いを浮かべているのは分かっている。
疲れる。早くここから離れたい。
私がクノさんに抱いている想いは、この女子たちとは全然違う。
同じにしないでほしい。