初恋エモ
☆
雲の隙間から顔を出した夕日が、水面にオレンジのうろこを映し出している。
「はぁ、はぁ」
今日はいつもよりペダルが重い。
ハンドルを変な方向に切らないよう、緊張感を保ちながら川沿いの道を進んだ。
息は切れ切れなのに、自転車をこぐ足は止まらない。
ジョギングをしている人や、犬の散歩をしている人。
すれ違う人からの目線を浴びたり、浴びなかったり。
今日も世界は正常だ。
――いた!
彼は土手の草むらに寝転がって、ぼんやり夕焼け空を眺めていた。
道の端に自転車を止めて、小走りで駆け寄った。
本当は時間通りに行きたかったけれど、初めてのことすぎて時間がかかってしまった。
一歩、一歩、近づく。鼓動が暴れまわっている。
叫び出したくなるほど感情がぱんぱんだ。まあ、怖い気持ちがほとんどだけれど。
「人のこと呼び出しといておせーんだよ」
彼――クノさんは不機嫌そうな声をあげた。
寝転がったまま。私の姿を見ないまま。
「すみません!」
クノさんのすぐ横まで近づき、ぺこりと頭をさげた。
その綺麗な顔を覆ったのは、不自然な形の影。
顔をあげた。
視界に入ったのは、焦点がある部分に集中されたクノさんの目。
驚いているのか、呆れているのか。
その表情は固まっているため、読み取ることはできない。
「お前……それ」
「見ます?」
不安に押しつぶされそうになったものの、顔いっぱいの笑顔を作る。
彼は上半身を起こし、にらむように私を見つめている。