初恋エモ
――一緒にバンドやりましょう!
あの日、ベースを片手にクノさんにそう伝えたけど、彼はイエスとは言わなかった。
ただ、お年玉貯金を下ろして買ったベースは家に置くことができない。
必死に頼み込んだ結果、クノさんの家に置いてもらえることになった。
「別にいつでも来ていいけど、『いない』ってなってるのに中の電気ついてる時は入ってこないで」
彼はドアノブにかかっている木製の札をいじり、そう言った。
「あ、はい……?」
「女といるかもしんないから」
う……、と声にならない声が口からはみでる。
構わず、彼は部屋の中に入っていった。
ちなみに『いる』『いない』札はミハラさんが作ってくれたものらしい。
ミハラさんはご飯持ってよく遊びに来るんだって。
鍵はかけていないから、『いない』時も入ってOKとのこと。大丈夫かしら?
「ひとつ余ってたわ。ここ立てて」
クノさんはギタースタンドを一つ分けてくれた。
買ったばかりのベースを立てかけると、ターコイズブルーのボディに蛍光灯が反射した。
これから私はこのベースとともに生きていくんだ。
そう思うと、ぞくっと体が震えた。武者震い的なやつ。
「お前、ベース弾いたことあんの?」
「ないです」
「できんの?」
「う……。でも、有名バンドのインタビュー読んでも、だいたい中学か高校で楽器始めてる傾向があると思いまして。だから頑張ります!」