初恋エモ
☆
体育祭が近づき、ソフトボールの練習が始まった。
「やだー! 全然取れないんだけど。美透ちゃんごめんー!」
男子と楽しそうにキャッチボールをする穂波さんたち。
そんな光景を横目に、変なところに飛んでいったボールを追いかける私。
元陸上部の私は、体力はあるものの球技の経験はない。
戦力にならないと思われたのか、気がつくとボール拾い係を押し付けられていた。
授業のコマ数が少なく、かつバイト休みの今日。
本当は早く帰ってベースを弾きたかったけれど、全員が集まれるのは今日だけらしく、仕方なく参加することにした。
ピッチャーはクラスで目立つ男子で、一球投げるごとにボール遅すぎ! 外しすぎ! などとヤジが飛んだ。
「それなら私も打てるかも!」
「わっ!」
ボール片手に戻ってきた私に、穂波さんはグローブを押し付けバッターボックスへ走っていく。
私の顔も見ず、ドン! とぶつけるように渡されたため、嫌な気持ちになった。
「ちょっとー、なんで急に速い球投げるのー?」
今の素振りでしょ? 違うし! バット飛ばすかと思って怖かったわー! なにそれ、ひどいっ! やべー超ウケるー!
思いっきり空振りをした穂波さんは、男子たちにいじられ、嬉しそうにしていた。
みんなの笑い声が空へと響き渡る。
手を叩いて笑っている女子の隣で、私もあははと笑っておいた。
グローブをつかむ手に力が入る。
『面白くないのに笑って
クソみたいに愛想振りまいて
自分が知らない人になっていく』
クノさんが歌う通りだ。
私、面白くもないのに笑っている。
心では全く笑っていない。むしろイラッとしているのに。
本当に自分がいなくなっていくみたい。
でも音楽に触れている時だけは、私は私でいられる。
早くベースを弾きたい。私は一体何をしているんだろう。
「えーやだー! あそこ! 先輩見てるよ!」
女子たちの大声により、はっと我に返った。
今練習しているのは、校舎横に面した小さなグラウンド。
ベランダに先輩らしき男子がたまっていて、こっちを見ていた。
よく見ると、その中にクノさんもいた。すぐにいなくなったけど。