初恋エモ
到着したのは、隣の市にある楽器屋さんだった。
私がこのベースを買ったところ。
色とりどりのギターやベースの間をすり抜け、奥の階段を上る。
重そうな扉のドアノブを彼は握った。
開けると同時に、解放された空気とともに、ドラムやシンバルの爆音がなだれこんできた。
びっくりして、クノさんの後ろをそーっとついていく。
「さーせん、遅くなりました!」
入ったのは、八畳くらいの小さな部屋。
側面が鏡になっていて、大きなアンプが並べられている。
連打されていたドラム音が止んだ。
恐る恐る、奥のドラムセットに視線を移す。
そこには――
「おーやっと来た。って、ベースこの子? まさか中学生?」
目をまん丸にして驚いている、パーマヘアの男性が!
もしかして、この男性は……?
「ほら早く準備しろよ、ベース」
得意げな顔でクノさんに指示され、はい! と返事をした。
自分の背丈より大きなアンプにベースをつなぎ、電源をオンにする。
試しに、一番太い弦をはじく。
増幅された低音が空気を振動させ、私の鼓膜を直撃した。
いつもはアンプなし、またはクノさんの家の小さなギターアンプにつないでしか音を出したことがない。
こんな大きな音を出したのは初めてだ。