初恋エモ
☆
バイト、家事、バンドと毎日が忙しく、夏休みはあっという間に終わった。
時々、中学時代の友達と遊んだり、家族でおばあちゃんの家に行ったり。
クラスの友達から連絡はなかった。
SNSで楽しそうな写真が回ってきたけれど、見ないようにした。
秋になり、二年生のある女子と仲良くなった。
「家遊びに行ってもずっとギター弾いてるんだよね。全然かまってくれなくてさ~」
「そ、そうなんですか……」
校則違反の茶色いボブヘア、たくさんのピアス穴。
短いスカートに舌っ足らずな話し方。
クノさんの彼女、翠さんだ。
教室では穂波さんが幅を利かせているため、微妙に居心地が悪い。
最近は、理科室奥の階段に集合して、翠さんと一緒にお昼を食べている。
「それより美透ちゃんベース弾けるってすごいね! ライブ絶対行くね!」
「や~全然です。クノさんに怒られてばっかりです」
「え? あいつ、怒ったりするの?」
軽く返したはずなのに、翠さんは目を大きくさせた。
昨日も新曲のベースをほとんど直された。フレーズが難しくなり手が追い付かず更に怒られる。そんなのばっかり。
気になったため、「翠さんといる時はクノさんどんな感じなんですか?」と尋ねてみた。
「二人でいると超優しいよ。だから続いてるのかも」
クノさんとは付き合って3ヶ月。翠さんの歴代の彼氏の中で最長とのこと。
意外とクノさんは翠さんには優しいんだ。
浮気もしていないみたいだし。
練習していても、彼女が来るからって追い出されたこともあったし。