初恋エモ
バイトが終わり、駐車場の隅でスマホをいじっている翠さんのもとへ向かった。
「お待たせしました。今日クノさんの家行くんですか?」
「行こうと思ったけど、ライン返ってこないからどうしようーって」
クノさんには「家来るときは必ず連絡して」と言われているらしい。
まあ私と一緒にいるところを翠さんに目撃されても、お互いいい気分はしないだろう。意外と気を遣っているんだな。
翠さんは徒歩だった。
いい匂いする~と言いながら、カレーや焼き魚の匂いが漂う住宅街を進んでいく。
どこに行くかは分からないけれど、私は自転車を押して、その後ろをついていった。
「なーんか、難しいよねー!」
翠さんの大声がまわりの家に跳ね返って戻ってきた。
「何かあったんですか?」
「ううん、全然ー」
道路の真ん中を右へ左へふらふら歩く翠さん。
車のエンジン音が聞こえると、おっと、と道の端に移動する。その繰り返し。
なんだか危なっかしいので、「私も割引の総菜買ったんで、あっちで食べましょうよ」と川沿いの道へ誘導した。
翠さんは振り返り華やかな笑顔を浮かべた。
「いいね、パーティーしよ! ミハラくんも呼ぼう」
ミハラさんも? なぜ? と言う前に、翠さんはスマホをいじりだした。
すぐに、ちょうど部活帰りで来れるって、と楽しそうに教えてくれた。
いや待て。なぜ私はミハラさんに対してこんなに動揺しちゃうの?
ミハラさんはいい人なだけなのに!
野球場横のベンチの上に買った総菜を並べ、お互いお茶のペットボトルを持つ。
「かんぱーい!」
翠さんは楽しそうだ。
その笑顔を見ると、胸がきゅっと痛む感じがする。