初恋エモ





初ライブが近づいてきて、スタジオ練習の頻度が増えた。

帰りが遅くなることが増え、母に疑いの目を向けられていた。


「美透、最近夜遅くない?」

「え、あ、ちょっと友達の部活の手伝いしてて……」

「何部?」

「文芸部。部誌の制作の手伝い」


とっさについた嘘を母は信じてくれた。しかし。


「部活もいいけど、バイトもっと増やせない? 真緒がサッカーの遠征があるみたいで、結構お金かかるのよ。美透には苦労かけるけど、もう少し頑張れないかな」


ゆっくりした口調ながらもマシンガンのように要求が来る。


「うん、頑張る」


バンドやっていること、絶対にバレてはいけない。辞めさせられる。

そう思い、笑顔で返事をした。


バイト……もっと時給のいいところに変えようかな。


クノさんに相談したところ。

「ライブで客呼べばいーだろ」とのこと。


チケットノルマが15枚。それ以上呼べればお金のバックが入る。

ただでさえ友達が少ないのに、そんなに呼べるだろうか。


ベースを弾く手を止め、指を追って呼べそうな人を数える。


「中学の時の友達に声かけます。あと、クラスの友達……」


そう言いかけたところで、クノさんはニヤリと笑った。


「あーそれはいいわ。お前今クラスで孤立してんでしょ? お前のクラスのやつは俺が誘っとくから」


私のノルマは知り合い5人をライブに呼ぶこと。頑張ろう。

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